怪奇探偵 プロローグ「事務所紹介」
そこに小さな探偵事務所がある。
「朽木探偵事務所」
狭い階段を上り薄っぺらい簡素な扉を開ける。
そこにはいかにも名探偵が座りそうな革製の椅子と大きな机が置いてある。
小汚いビルには全く似つかわしくない。むしろ浮いている。
『探偵に憧れるけれど儲かってはいない』といったところか…
アンティーク調の革製の椅子が回転し正面を向く。
この事務所の主である自称「名探偵」朽木勇作。
彼は真っ黒な細身のスーツを身にまとい、
やや古風な銀縁の眼鏡をかけている。
視力が悪いのだろうか、レンズはとても分厚い。
朽木「はあ…また依頼が来なかったな…」
気落ちしているがこれはデフォルトで、
朽木は35歳。まだまだ働き盛りであるものの
常に覇気がなく眉は自信なく下がっている。
「先生、またそんなこと言って
依頼ならたくさん来てるじゃないですか」
お茶を差し出す一人の女性。
彼女の名前は岡田桜子。
朽木の助手。彼を尊敬し、そして秘かに想いを寄せている。
岡田「これ見てください。依頼のファイル。
先生は人気の探偵なんですよ、もっと自信持ってください…!」
朽木を敬う彼女はいつも彼を励まそうと必死だ。
しかしすかさず朽木は言葉を遮る。
朽木「そんな、桜子ちゃん。これ全部心霊案件だよ」
しんと一瞬室内が静まり返る。
朽木「僕が欲しいのは普通の依頼なんだけどねえ…」
*
朽木勇作。
類い稀なる霊感の強さから来るものは心霊に関する依頼ばかり。
一部業界では「怪奇探偵」と呼ばれている。
今日も高く積まれた心霊案件の依頼をこなすのだったー…
つづく